日本に期待する新興国とそれを利用してきた日本
日本国内に新興国の人と出会う機会が増えてきた。新興国人材がより一層活躍できる機会の提供や場創りを考える時に、避けては通れない現実に目を向ける必要がある。
それは、今や生活者でも知る人が増えてきたが、技能研修制度の実態である。この制度が出来たのは1993年である。
背景の詳細は割愛するが、端的に書けば、日本の不足する労働力を補うための制度である。制度のたてつけは研修制度となっているが実態は安価な労働力の確保である。
これは、経営の現場を知っていればすぐ理解できることである。1990年代ごろから、製造業、第一次産業などで労働力不足が顕著になって来た。日本の高齢化社会の進展と少子化が主たる要因だが、若者の労働に対する意識の変化も見逃すことはできない。
こういう仕事は、昔は3Kと揶揄されてきた。転職の自由度が高まり、楽に働く機会に巡り合うことは、年々容易になってくる。
特に、サービス業などでそれが顕著だった。日本の若者は、社会の底辺を支える仕事の現場から徐々に遠ざかって行った。そして、その不足を埋めるために、新興国の技能研修生という制度が利用されてきた。
それが今は、建設業も対象になり、次は運送業などの業種かと言われている。
介護にしても別の制度ではあるが、日本は新興国人材の受け入れを積極的に推進してきた。
数年ほど前から、日本は国連でも搾取労働ではないか、人権侵害ではないかと批判されることもあった。また、日本国内でもNHKが特別番組でも取り上げるようになった。現場の実態を明るみにした関連書籍やメディアの記事も沢山登場した。
そして、生活者も徐々に日本の労働力不足の課題と今発生している労働の現場の問題を知るようになってきた。今でも、コンプライアンス違反の会社は後を絶たず、メディアでもニュースになることもある。
私がベトナム現地で法人を創り、社員を採用していると、日本から帰国して就職先を探している若者に沢山遭遇した。中には、とても日本語力が高い人がいて、通訳としては特に重宝した。それと何よりも日本で3年でも生活すると、日本の事をよく理解しているので、日系企業としてはとてもありがたい。
こんな訳で、10数年前は、日本語の通訳ができる社員候補は、日本で技能研修制度で人達だった。その後、ベトナムにもITブームがやってきた。大学でITを学んだ人たちが注目されるようになった。
しかしそれまでは、IT業界でも日本に技能研修生として頑張っていって働いて日本語をマスターした人たちが、通訳兼ブリッジエンジニアとして活躍した時代でもあった。
もちろん、今でもそういう日本での体験を経てベトナムに帰って活躍している人も多いし、起業家ブームに乗って、元技能研修生としての経験をもとに、起業家として成功している人もいる。
なんともタフな話だ。今では私の良き経営の同志としてお付き合いしていて、なおのこと思う。
一方で、残念な話しも沢山遭遇した。
日本での研修生で過ごした間に、それなりのお金は稼げたが、日本のことを好きになったという人は思ったより少なかった。
こういう人たちの生の声を聴きながら、色々考える機会があった。確かに、技能研修生で日本に行く目的は、一義にはお金を稼ぐことである。
日本側がいくら表向き研修制度であると喧伝しても、送り出す側からしたら、お金を稼ぎにいくのが一番の目的である人がほとんどだ。
また、彼らには選択肢はそれなりにある。
日本でなくても、韓国や台湾もあるしヨーロッパもある。日本を選択した理由の一つに憧れの国である、大好きな国であるという人も多いと思う。それは、ベトナムで長年過ごしてきてそう思う。せっかく日本で凄く機会に恵まれたのに、日本は美しく便利な国なのに・・。日本のことを好きにはならなかった人達。また、あわせて過酷な労働環境の実態も知ることになった。
もちろん、日本で受けいれる企業がそういう不健全な活用をしている会社ばかりではない。おそらく、少なくとも半数以上は、健全な制度の活用を実践していると思う。一方で、法律違反ではないが、道徳的倫理的にどうかという活用をしている企業も多かった。
私は、ベトナムで日本経験がある人の本音を聴きながら、考えた。
どうしたら、日本のことを心底好きになってもらえるのだろうか。
それは、やはり、人的な交流である。
実際に、技能研修生が送りだされる場所は、都会もあるが、地方も多い。地方は、本来は日本人にとっては、とても落ち着く日本らしさを感じる場所が多い。いわゆる田舎である。
こういうコミュニティに属すことが出来れば、日本人のことをしっかり理解してもらい、色々な意味で楽しく過ごせると思う。
ところが、なかなか、日本人なら誰でも知っている村社会は閉鎖的だ。よそ者でも大変なのに、更に外国人となると、とてもハードルが高い。
結果、仕事だけの毎日が続く。極端な話し、同じベトナム人でも働き場所が違うと、SNSがなかった時代は、連絡をとるのも大変だった。
日本人は、新興国に対して、親日であると聞くと喜ぶ。もちろん、私もそうだが、まずは、実態と本音を知ることが大切だ。
日本を好きな人も多いが、日本に来て嫌いになる人もいる。日本を最初から好きでない人も沢山いる。日本が親日になってもらう努力が大切な時代なのである。
以上