近藤昇の「仕事は自分で創れ!」

「仕事は自分で創れ!」ブレインワークスグループCEOの近藤昇が、日本とアジアをはじめとするエマージンググローバルエリアに対する思いやビジネスについて発信します。

これからの起業家にも新規性が本当に必要なのか?

起業家が増えない。

国も民間も躍起になって起業家を増やそうと支援したり政策を矢継ぎ早に出したりする。

こういう状態は、少しは変化はあるにしても、もう20年ぐらい続いているように思う。

 

私が31歳で創業した時、しばらくしてから第三次ベンチャーブームの風が吹いてきた。

私は単純に独立したかった。することは全て自分で決めたかっただけなので、最初はベンチャーは別世界と思っていた。

 

結局、無知で未熟だった私は一時期中途半端にベンチャーブームに流されるように巻き込まれた。

今はスタートアップと表現して、世間ははやし立てているが、20、30年前と何ら変わらない雰囲気を感じる。

今でこそ、当たり前のキーワードになったが、当時は、時価総額経営が席巻していた。時価総額1000億をめざしましょう。しかも短期間で。こういうブームが私の周りでも吹き荒れた。

 

積極的にこの流れに乗った起業家、流されて乗っかった起業家。そして、見向きもしなかった起業家。私は神戸にいたこともあり、中途半端にかかわった。どっちつかずだったと思う。

東京で起業していたら、全く違った方向に行ったかもしれない。

 

一流企業として今も存在する会社に成長したところもあるが、当然、それはごく少数だ。殆どの起業家は倒産か事業停止か。あとは、数年で売却したつわものもいる。色々と社会問題になった起業家も記憶に新しい。

 

だから、私には今のスタートアップブームはその頃の焼き直しとしか思えない。

 

人間は不思議なもので、昔と同じようなことをしていても、表現を変えて違うものに見せることが出来る。最近の10年ぐらいの幅でしか、こういう世界を知らなければスタートアップは全く新鮮に映るだろう。

 

もちろん、経営環境が全く違うから、別物だと言う人もいるだろう。今はITを駆使すれば、短期間にスケールの大きい成長ができると確信している人もいるだろう。

常に千差万別、多様な意見はあって当たり前。ついでに言うと、人間の毀誉褒貶もなくなることもない。

 

私が警鐘を鳴らしたのは、大事なことを忘れていないかだ。雇用の創出や地域活性化のために起業家を増やすことは大賛成だ。当然、シニアや女性がその重点ポイントになる。ところが、このあたりまで十把一絡げで、スタートアップブームにしてしまっている。何をかいわんやである。

 

小さくても普通の静かなコツコツ型の起業家の輩出の方が、スタートアップで派手に大きくなるより何倍もこれからの日本に必要な事なのだ。

中小企業が減ってしまうと日本の経済は間違いなく揺らぐ。

 

また、日本は不思議と欧米のスタートアップに対抗しようと言う意識も根強い。

土俵が違うことを分かっていない。

こんなことをしていたら、日本の価値や良さを見失うし、そもそも、様々な複雑な日本独特の社会問題の解決などできようがない。

 

もっと日本の強みのモノづくり力や現場力に根差した起業の支援に軸足を置くべきだと思う。背景も歴史も違う国と同じ土俵で勝負しようとすることがナンセンスである。

 

 

スタートアップの事業モデルの尺度は、とにかく新規性があり市場性がありかつ短期間でスケールアップだ。もう一度言うと、これは私が創業時にベンチャーブームを体験した時と何ら変わっていない。その当時から大事なことが欠けている思っている。

 

創業して5年目で1億ぐらいをいわゆるVC(ベンチャーキャピタル)から調達した際、最初は、自分がやりたいことだけを事業計画に書いた。意に反して新規性に見えるネタに書き換えを強くアドバイスされた。

これに安易に乗っかったことは、今でも自分自身の反省の一つである。

 

この時の世間は、新規性、市場性、独創性が経営者を判断する視点だったと思う。

起業というのは新規性ありきではない。

が私の持論だ。すでに誰かがやっていることを前提に、いうなれば創意工夫や改善をすればよい。特に今の時代は、様々な見える化やつなげるだけでも社会貢献で勝つ収益性のある事業は無限にある。それだけ多様で変化の時代なのである。

 

また、ITのプラットフォームも常に光と影がある。健全に使うことを前提にすれば、これからは大の時代ではなく、小のつながりの時代であることは一目瞭然である。

仮に小さい個の企業活動に新規性がなくてもそれがつながるだけで、全くの社会性でありかつ新規性になる。

 

色々と書いてはみたが、私は起業家に必要なのは新規性ではなく、今ある日本の問題をどう解決するか?この一心があれば十分な時代だと思う。

 

今ある問題と言うのは、時代の変化や生活様式、ビジネスの進化に伴う新たな問題もあるが、それよりも、以前からあったものだ。

いいまで優先順位が低かったり、問題意識が低かったりのために放置されてきた問題や課題に焦点を当てる。

 

そういう意味では、新規性と言うよりも社会性が何よりも重要となる。誰が果敢にそういう問題や課題を解決するか?これからの起業家に期待したいところである。

 

直接金融は充実しつつある日本だが、残念ながら、そういう起業家には資金の援助は乏しい。今、日本には本当のエンジェルは少なくなっているのではと思う。私は創業時、VCからも資金は一時的に受けたことはあるが、それ以外は基本的にエンジェルと経営者仲間などが資本参加していただいている。

 

近いうちに、これからの日本を支えるような小さな単位の起業家を支援するしくみを構築しようと思う。その支援のポイントを挙げるとすれば、社会貢献、健全性、継続性である。収益性は当たり前のことであるし市場性もこんな時代に予測できるものでもない。

こんなスタンスでこの先も、小さな多様な起業家の輩出を中心に貢献する考えである。

 

以上